ポイント制人事考課システムで離職率低下とモチベーション向上を実現した話(3-運用準備編)

 

ポイント制人事考課システム運用の前に

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ポイント制人事考課システムの運用準備編です。

公平な人事考課

ポイント制人事考課システムに限った話ではなく人事考課で一番大事なことは公平な人事考課です。

呆れた人事考課の実態

従来より「7月実施の昇給・昇進」、「12月支給の賞与」のために年2回の人事考課が行われておりましたが、赴任1年目の6月、11月にその考課表を確認して驚きました。

普段「スタッフのAは出勤率が悪い」「Bはミスが多い」等と部下に対し不満をこぼしていたマネージャの考課表は、外国人労働者を除いたローカルスタッフに軒並み最高評価を与えていました。他のマネージャも多少の差はあるもののローカルを高評価、外国人労働者を低評価という状況でした。

これを各マネージャに問うと「考課が悪いと可愛そうだから」と平気で答える状況でした。

マネージャーによっては人事考課を自由に高くすること、自分の手中にその権限があることを部下に見せつけることで自分の威厳を保つ雰囲気すら醸し出していました。

このような状況が平然と罷り通っていた実態を知り呆れ返ったものでした。

公平な人事考課を実現するために

しかしこのような実態を長年放置していた経営者側にこそ原因があると思い当時の経営幹部に実態を説明し、人事考課の重要性と公平性について納得できるまで説明しました。

公平な人事考課を実現するためにこれまで一律に考課されていた外国人労働者もローカルと区別せずに考課し、その結果に応じて昇進・昇格・昇給を行い、賞与も考課に従って支払うように変更しました。

これにはコストが上がるという懸念から日本本社や他の経営幹部から反対意見がありましたが、当時のマレーシアでの外国人労働者の重要性を説明し納得してもらいました。

反対意見はローカル社員からも出ました。その多くは外国人に越されたくないという極単純な理由ですが、根源的な理由でもありました。

考課基準の目合わせを目的に経営幹部、マネージャーと初心に戻って人事考課について研修を数ヶ月にわたり行いました。

考課以外にも当時は問題がありました。給与の支給額や昇進・昇格・昇給内容、賞与額まですぐに社員間に知れ渡っており、そのためにA社員を上げればBもという人事考課とは関係のない要素でマネージャーがバランスを取っていたのです。

そのため就任2年目の6月に行った昇進・昇格・昇給の人事考課から次のような対策を行いました。

  1. 人事部門については賃金台帳や考課表など人事に関する資料の机の上などへの放置を禁止し鍵付きのキャビネット内に必ず保管する。そして人事情報を口外しないこととする。社内に情報が漏れている場合は人事から漏れたと認識する。
  2. 昇進・昇格時には対象者一人ずつと課長と経営幹部とで面談を行い、考課された点、改善点を説明する。この際この内容について機密保持契約を行い情報が漏れた場合は昇進・昇格を取り消すこともあり得ることを承諾する。

これが功を奏したせいかその後人事情報が漏れることは無くなっていきました。

このように赴任2年目の人事考課から考課基準の改善に取り組んでいたためポイント制人事考課システムでは、まず第一に考課者に人事考課について基本からしっかりと再教育することにし、それを根付かせていくためにもこれまでの年2回の人事考課を毎月行うことにしました。

翌年1月から毎月行っている経営幹部との経営会議で、ポイント制人事考課システムの説明と人事考課について時間を取り説明することにしました。

最初に彼らに再認識してほしかったのは、ありきたりな言葉ですが「企業はヒトなり」でした。

マレーシア人は大きく分けてマレー系、中華系、インド系で構成されていて、日本人には理解しがたい人種間の隔たりがあります。こう言い切ってしまうのも問題かもしれませんが、個人的な見解として読んでいただければと思います。

皆様ご存知のブミプトラ政策もその一因です。

ここで政策のことを述べることはしませんが、同じ国民の間で公然とまかり通る不公平のなかで一つの企業内で公平に、平等にと声高に叫んだところで心から理解されたかは疑問が残ります。

とはいえ企業で一番大事な経営資源はなんと言ってもヒトであり、そのための人事考課ですので一番最初に抑えておかなくてはならないポイントでした。

説明会の一番最初に「企業はヒトなり」の説明をしてから、ポイント制人事考課システムの説明をしました。

人事部門の教育

もう一つ重要なこととして人事部門の意識改革がありました。

私のいた会社だけでは無いと思いますが、人事部門はどちらかというと新入社員採用を除くと受け身になりがちで他部門から言われたら動き出すという姿勢なのではないでしょうか。そんなこと無いと思われた方がいらっしゃいましたら失礼をお詫びします。

そこでただやみくもに「やれ」と言っても人事担当者も何をすべきかわからないと思いましたので、経営資源のヒト・モノのモノを扱う購買部門の業務と対応付けて、どのように自発的に動くべきかを整理して説明しました。

購買部門が日常行っている業務プロセスを人事に置き換えた場合として下表をもとに説明しました。

プロセス購買部門人事部門に置き換えると
台帳仕入先、材料、部品、所要量

・新規→支払条件、価格、リードタイム、仕様書・SDS、所要量

・サンプル評価

人事

・新規→資格確認、希望給与、履歴書、入社可能日、必要人員数

・面接

所要量生産計画を元に所要量計算生産計画を元に必要人員計算
発注発注品検索、発注書採用活動、採用通知
入庫納期確認、入庫確認、型番、数量、状態

注残確認、注残問合、温度管理

QA受入検査、問題あれば仕入先に確認

入社日再連絡、入社確認、入社時研修、健康診断、必要人員残確認

問題あれば本人や依頼部門に確認

出庫出庫伝票受領後、型番、数量、状態確認し出庫必要人員表受領後、要求人事条件、人数を確認し部門異動含め検討
在庫棚卸、在庫数チェック、評価単価計算人員配置図、人事考課

こうして表にし何回か説明を行ったことで人事担当者も受け身として仕事をこなすのではなく、自らが進んで業務プロセスに従って他部門と同じように業務を行うべきという意識が芽生えて来て先手を打ちながら仕事をするようになりました。

例えば入社予定者がいた場合、以前はその日になって入社予定者が来ないことがわかり予定していた業務が無駄になっていましたが、説明後は入社予定者に前日に連絡し明日の何時までに会社に来るようにと知らせることで仕事を無駄にしてしまうことがなくなりました。これなどは購買部門の入庫確認を真似たものですが、人事担当者自身もそうすることで仕事がスムーズに進んでいくことを覚えたようでした。

また以前はある部門から求人要望があるとすぐに求人の承認を受けに来ましたが、他部門の責任者と相談し異動の可能性も考慮した上で求人の承認を受けに来るようになりました。

参考書籍のご紹介

 

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