マレーシアで体験した奇跡的な出来事(ビジネス編)

マレーシアに住んでいた8年間、ビジネスや個人的なことで奇跡的な出来事が起きました。
その中で印象的な出来事をご紹介します。

1.火事になって一転黒字に

期待された黒字決算

赴任3年目、新製品の受注数量も増加し、昨年度後半から量産ラインも安定し始め、日本本社からは今期の黒字は必須だと期待されておりました。(会社の決算期は1月〜12月でした)

全社一丸でその期待に応えるべく1月から生産能力一杯の生産を行い、日本に向けて出荷を続けていました。
1月も中旬を過ぎた頃、製造責任者が血相を変えてやってきました。
「社長、〇〇機が故障しました。」
こともあろうに1台しかない設備が故障してしまったのです。
すぐに日本に問い合わせをし、復旧を試みましたが全く目処が付きませんでした。
最終的には設備メーカーにマレーシアまで来てもらい復旧しましたが、この間仕掛品が溜まり、アウトプットするまで数ヶ月かかりました。

また3月には別のトラブルが発生し出荷停止し、再検査をしなくてはならない事態が発生。
黒字どころか3月某日時点で約RM30万(800万円)の赤字になってしまい、どう頑張っても黒字転換は非常に厳しい状態にまで落ち込みました。

損害保険会社の変更

話は5ヶ月遡り、11月のこと。
B損害保険会社から新しい担当者が挨拶に来ました。
当時会社はA保険会社と損害保険、従業員生命保険の両方を契約していました。
長い付き合いですので保険料もかなり安く、これまでの経営者は2月の更新の時期に定型業務のように更新を行っていました。
ところがB損害保険会社の新しい担当者はこれまでの担当者とは違い、料金はA保険会社以下に、そしてそのA保険会社との差額分を利益保証保険に充ててはいかがでしょうと、これまでどこの保険会社もしてこなかった提案をしてきました。
この提案に惹かれ、損害保険のみをB損害保険会社に切り替えました。

火事発生

話は再度3月に戻ります。
3月のある日曜日のこと、私は土日の休みの昼食はマレーシアで知り合い家族ぐるみの付き合いをしていた香港人が経営する飲茶料理店で食べることが多く、昼食後に会社に行き工程を巡回するのが常でした。
その日は飲茶を楽しんでいたところにスタッフから電話が来ました。
電話に出ると

「社長! 火事です! 火事です!」
と甲高い声。
「どこが? 怪我人は? どの工程だ?」
と聞くと
「変電設備からです。怪我人はいません。火は先程消えましたが、煙が出ています!」
「怪我人がなくて良かった。消防車は?」
「呼びましたが、他の火事で出払っていて、少し待ってほしいと言われました〜」
のんびりお茶を飲んでるわけには行かないので、すぐに会社に向かいました。
10分ほどで会社に着くと既に煙もなく変電設備室のドア付近に煤がついていました。
二酸化炭素消火設備が働いたのか他の箇所へ火が移ることはありませんでした。
状況を確認しているところに消防車が来て「今日は火事が多いようなんです」と、大したことないから良かったものの、もっと深刻な火事だったらどうなるのかとマレーシアの消防に不安を覚えました。

火が出たのはメインの変電設備だったため社内の全電源が使えないため、急遽会社は復旧まで休業としました。

交換する変電設備は当初1ヶ月以上掛かると言われましたが、運良く他社に納品される予定のものを回してもらえる事になり、1週間ほどで全電源が復旧しました。

しかし、停電の影響は見えないところで生産設備に影響を与え、設備トラブルや設定値が狂い不良率を上げてしまい、上半期が締まる6月時点で経常損益はRM52万(約1,400万円)の損失になっていました。

赤字が黒字に逆転

一方で保険会社との交渉を進めており、7月には電気設備・生産設備・工具類 の損害分でRM26万、棚卸資産の損害でRM10万の計RM36万、それに新たに契約に追加した利益補償分がRM10万加算され、合計でRM52万の保険料が入り、7月累計でRM2万の経常利益になりました。

その後は安定的に事業が進み、この年は日本本社の期待通り黒字決算で終えることができました。
思いもよらず、赤字決算さえ覚悟したときに火事で黒字に逆転!

事業主の皆様、保険には入っておきましょう。人生もビジネスも何が起こるかわかりません。

2.テーブルが崩れ落ち、ボイコットが終わった

最低賃金法施行

2013年1月よりマレーシアに最低賃金制度が導入され、対象者は外国人労働者を含むことになり、各社の賃金体系に大きなインパクトを与えました。
私のいた会社も同様でした。

それまで社内の最低賃金は、国が定めた半島マレーシアの最低賃金RM900の半額程でしたので、人によっては倍ほどの昇給になります。
このときは多くの経営者団体からの反対意見があったため、ある期間を経て撤回されるのではないかという情報もあり、給与体系をどう工夫して最低賃金RM900にするかが悩みどころでした。
というのも、基本給だけでRM900にしてしまうと撤回された際に戻せなくなるので、基本給を出来るだけ変更しないで最低賃金法に準ずるのかがネックでした。

Labor Officeに何度も問い合わせた末に合法的な給与体系が決まり最低賃金への是正処置を進めることになりました。

毎月の労務費負担に関わることですから簡単に上げることはできません。
約200人ほどの給与の分布図を作成し確認すると、RM1,200からRM1,400の間に空白部分があったため、是正対象者はRM1,200以下の者としました。
次に是正額の算定ですが、一番賃金の低い社員はRM450程上がることになりますが、対象者全員をRM450上げるわけには行きません。
1次関数を思い出し計算式を作成し、賃金に応じた上昇率を算出し加算、最終的に最低賃金対象者の是正後の賃金をRM900~RM1,300になるように決定しました。

また残業手当を抑えるために一週間の出勤時間をベースに残業時間を計算する新たなシフトを作成しました。

社員説明会を開催し、最低賃金への対応方法を説明しました。

ボイコット勃発、そして奇跡が

しかしこの決定にローカルの社員は外国人労働者が優遇されてローカルが損をしているとの不満からボイコットが起きました。
私は夕方説明するから事務所に集まるように言い、一旦仕事に戻させました。

夕方、いよいよ私とボイコット社員がテーブルを挟んで向かい合う形で説明をはじめました。
話も佳境に差し掛かり、私が
「このように全員が満足する形で賃金を増やしていったら、会社が赤字に転落して・・・・」
と言ったところで、誰も触れていない、双方の間にあったテーブルが、ガターンッと音を立てて脚が外れたようになり、床に崩れ落ちました。

私も一瞬驚きましたが、これは使えると思い
「会社もこの様になる」
と言いました。

その場にいた社員も突然の出来事に先程までの勢いは消え去り、というより私を妖術使いなのかという畏れを抱いたのかおとなしくなったため
「これからも一緒に頑張っていこう」と私は締めくくりました。

ちなみにこのテーブルは生産現場の管理事務所内で普段もミーティングで使われており、壊れるようなものでは有りませんでした。

あまりのタイミングの良さ、そしてあの緊張感の中での出来事で私も助かりました。
いくら説明しても多分納得はしてもらえなかったでしょう。

3.税関署長の突然の異動で万事解決

税関署長との初面談

量産から数ヶ月、社内には日本へ返送予定の材料が溜まっていました。
その材料をマレーシアから日本へ輸出するため税関に申告する必要がありました。
割と高価な材料で、税率はゼロだったためすぐに許可が出るものと思っていましたが、担当者が何度足を運んでも許可が下りませんでした。

そんなある日、税務署長が私と面談したいとのことで日付を指定してきました。
私は、いよいよこれで輸出許可が下りると思い、当日を楽しみにしました。

いよいよ面談の日、約束の時間は午後1時。
時間にルーズな東南アジアですが、そこは日本人、12:50に現地に着きました。

13時になり、いつ署長室から声がかかるのかとスタッフと待ちましたが、15分経過しても声がかかりません。
気になってスタッフに係員に確認させると、「待ってください」としか返ってきません。
この頃のマレーシアの役所 の仕事ぶりは、あくまでも一般論ですが
8時出勤、9時まで準備しながらおしゃべり、10時〜11時ティータイム、12時〜13時ランチタイム(金曜日は礼拝のため15時頃まで)、15時〜16時ティータイム、そろそろ帰り支度、17時帰宅。
このような話を聞いていましたので、またサボりかと思っていました。

輸出許可が下りた

14時が過ぎた頃係員から呼び出しが掛かり、輸出許可が下りたとのこと。

待たされた理由を聞くと、実は前署長が昼休みに急に異動となり、前署長であれば許可が下りるかは不明だったが、新署長は「よくわからないから君が問題ないと思うんだったら許可下ろすよ」と、係員に任せたとのことで結果オーライではあるものの、数ヶ月かかった輸出許可をもらい日本に輸出することができました。

その背景にはスタッフの根気強い交渉と税関係員への配慮があったことも忘れてはいません。

前代未聞の昼休み中の署長の異動が招いたミラクルでした。

まとめです

ビジネス関係で起きた実体験した奇跡の話を書いてきましたが、奇跡は起こそうと思ったり、望んで起きるものではなく、思いがけなく起きるものというだと感じました。
私が好きなチョン・ジヒョンという女優の映画「猟奇的な彼女」の中で

  • 運命というものは努力した人に偶然という橋を掛けてくれる。
  • 偶然とは努力した人に運命が与えてくれる橋。

というセリフがありましたが、奇跡が起きることを期待せずに今出来ることを一生懸命に取り組んでいる最中に、奇跡という出来事は偶然に起きるのではないでしょうか?

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