
これまでの連載では、AI、ロボット、医療、仕事、お金、そして社会の仕組みについて考えてきました。
しかし未来社会を考えるうえで、どうしても避けて通れないものがあります。
自然災害です。
地震。
津波。
台風。
豪雨。
洪水。
土砂災害。
山火事。
火山噴火。
科学技術がどれだけ進歩しても、自然そのものを完全に止めることは難しいでしょう。
AIが進化したからといって、地震をなくすことはできません。
台風を消すこともできません。
では、未来社会でも私たちは自然災害に対して無力なのでしょうか。
私は、そうではないと思います。
災害そのものをなくせなくても、「災害で人が亡くなること」を限りなく減らすことはできるかもしれません。
「災害を防ぐ」から「災害が起きても死なない」へ
第1回では、自動車について一つの疑問を書きました。
もし自動車が最初から、
「人を速く移動させる乗り物」ではなく、「人を安全に目的地へ運ぶ仕組み」
として設計されていたら、現在の交通社会はかなり違っていたのではないか。
という話です。
自然災害についても、同じ考え方ができるように思います。
これまでは、
災害を予測する。
防波堤を作る。
堤防を高くする。
耐震化する。
そして災害が起きれば救助する。
という考え方が中心でした。
もちろん、これらはすべて重要です。
しかしこれからは、もう一歩進んで、
「災害が起きることを前提に、人が死なない社会を設計する」
という発想が必要になるのではないでしょうか。
AIは未来を予知する機械ではない
AIという言葉を聞くと、
「AIなら地震の発生時刻まで予知できるようになるのではないか」
と期待したくなります。
しかし、AIは未来を魔法のように予知する機械ではありません。
AIが得意なのは、大量のデータから人間には見つけにくいパターンを探し、
「危険が高まっている可能性」
を見つけることです。
たとえば、
- 雨量
- 河川の水位
- 地盤の状態
- 気象情報
- 衛星画像
- 各地のセンサー情報
などをリアルタイムに分析すれば、
人間だけで監視するより早く異常を検知できる可能性があります。
重要なのは、
「完全に当てること」ではなく、「少しでも早く危険に気づくこと」
なのかもしれません。
数分早く分かるだけでも救える命がある
災害対策では、数時間、場合によっては数分の違いが非常に大きな意味を持ちます。
避難を始める。
電車を止める。
道路を閉鎖する。
危険地域へ人を近づけない。
高齢者や身体の不自由な人の避難を始める。
もしAIによって危険を早く検知できれば、
こうした行動を少し早く始めることができます。
未来の防災では、
「予測精度を100%にすること」より、「判断を早めること」
の方が重要になる場面も多いでしょう。
避難情報そのものもAIが個人別に判断する時代へ
現在の避難情報は、
「○○地区の住民は避難してください」
というように、地域単位で発表されることが一般的です。
しかし未来には、
もっと細かい避難判断ができるようになるかもしれません。
たとえばAIが、
- 現在地
- 自宅の標高
- 河川までの距離
- 道路の混雑状況
- 家族構成
- 移動手段
- 避難所の混雑状況
などを判断し、
「あなたは今すぐ、このルートで、この避難所へ移動してください」
と個人ごとに案内することも考えられます。
現在のカーナビが渋滞を避けてルートを変えるように、
AIが命を守るための避難ナビになる
わけです。
人間が危険な場所へ行かなくてよい救助活動
災害が起きた後にも、AIとロボットは大きな役割を持つでしょう。
大規模災害では、救助する側も危険にさらされます。
倒壊した建物。
火災現場。
浸水した地域。
有毒物質が漏れている場所。
余震が続く地域。
本来なら、
救助するために人間が命を危険にさらす必要のない社会
を目指すべきではないでしょうか。
そこで活躍するのがロボットやドローンです。
ドローンは「空から見る目」になる
災害直後には、どこで何が起きているのか分からないことがあります。
道路が寸断されている。
橋が壊れている。
集落が孤立している。
どの建物に人が残っているのか分からない。
こうした状況で、大量のドローンを飛ばし、
映像や各種センサーの情報を集めることができれば、
被害状況を短時間で把握できます。
さらにAIが映像を分析し、
- 倒壊した建物
- 道路の寸断
- 火災
- 取り残された人
- 救助が必要な地域
などを自動的に抽出できれば、
救助隊は優先順位をつけやすくなります。
つまり、
AIが判断し、ドローンが目となる。
そんな救助体制です。
ロボットは「人間が入れない場所」へ行く
空から見るだけでは救助できません。
そこで必要になるのが、地上で動くロボットです。
大型の人型ロボットだけが必要とは限りません。
小さな隙間へ入れるロボット。
瓦礫の上を移動できるロボット。
水中を探索するロボット。
熱や煙の中でも活動できるロボット。
災害によって最適な形は異なるでしょう。
その目的は一つです。
人間が危険な場所へ入る前に、状況を確認すること。
そして将来的には、
発見だけではなく、実際の救助までロボットが担当するかもしれません。
AIは救援物資の不足も判断できる
災害時には救助だけでなく、物流も大きな問題になります。
どの避難所に食料が足りないのか。
水が不足しているのか。
薬が必要なのか。
毛布が足りないのか。
一方で、別の避難所には物資が余っているかもしれません。
AIが各避難所の情報をリアルタイムで集約すれば、
「どこに、何を、どれだけ運ぶべきか」
を判断できます。
さらに道路状況まで考慮し、
最適な配送ルートを決める。
自動運転車やドローンによって物資を運ぶ。
こうした技術がつながれば、
災害時の物流は現在とはかなり違うものになるでしょう。
災害が起きてから考えるのでは遅い
しかし私は、災害対応で最も重要なのは、
AIやロボットによる救助そのものではないと思います。
もっと重要なのは、
災害が起きる前から社会をどう設計するか
です。
たとえば洪水が繰り返し起きる場所に住宅を建て続け、
災害が起きるたびに救助する。
これでは根本的な解決にはなりません。
AIが長期間の災害データを分析し、
「この地域は今後も水害リスクが高い」
「ここへ住宅を増やすべきではない」
「この道路は災害時に寸断されやすい」
「ここには避難施設が必要だ」
ということまで都市計画へ反映できれば、
防災そのものが、災害対応から社会設計へ変わります。
「壊れない街」より「壊れても人が死なない街」
自然の力に対して、
何も壊れない街を作るのは非常に難しいでしょう。
どれだけ丈夫な建物を作っても、
想定を超える災害が起きる可能性はあります。
そこで発想を変える必要があります。
壊れないことだけを目指すのではなく、壊れても人が死なないことを目指す。
建物が損傷しても避難できる。
電力が止まっても最低限の生活を維持できる。
通信網の一部が壊れても情報交換できる。
道路が一本寸断されても別ルートがある。
一つの避難所が使えなくても別の場所へ誘導できる。
このような、
「壊れることを前提にした社会」
の方が、本当の意味で災害に強いのかもしれません。
AIはインフラの異常を事前に見つけられるかもしれない
橋。
トンネル。
堤防。
道路。
上下水道。
送電設備。
こうしたインフラは、突然壊れているように見えても、
その前から小さな変化が起きている場合があります。
大量のセンサーを設置し、
AIが長期間監視すれば、
人間が気づきにくい異常を早期に発見する
ことができるようになるかもしれません。
壊れてから修理するのではなく、
壊れる前に直す。
これも未来の防災では非常に重要になるでしょう。
高齢化社会だからこそAI防災が必要になる
日本の場合、もう一つ大きな問題があります。
高齢化です。
災害が発生したとき、
誰もがすぐに走って避難できるわけではありません。
高齢者。
身体の不自由な人。
入院患者。
乳幼児を抱えた家庭。
こうした人たちには早めの支援が必要です。
AIが地域の状況を把握し、
「一般の人より先に避難を開始すべき人」
を見つけることができれば、
避難支援も大きく変わります。
ただし、ここには個人情報という大きな問題もあります。
命を守るためなら、どこまで個人情報を使ってよいのか
AIによる防災を高度化するほど、
多くの情報が必要になります。
現在地。
年齢。
健康状態。
家族構成。
自動車を所有しているか。
どの建物に住んでいるか。
こうした情報があれば、
災害時に非常に効果的な支援ができます。
しかし同時に、
国家や自治体が個人の生活をどこまで把握してよいのか
という問題が生まれます。
第6回でデジタル通貨について考えたときにも、
同じ問題が出てきました。
便利な社会を作ろうとすると、
社会は人間について多くの情報を必要とします。
その情報を使えば命を救えます。
しかし、使い方を誤れば監視社会にもなります。
ここでも、
技術より制度の方が重要になる
のかもしれません。
自然災害は世界共通の問題
自然災害は、日本だけの問題ではありません。
洪水。
干ばつ。
森林火災。
ハリケーン。
台風。
地震。
津波。
世界中でさまざまな災害が起きます。
AIによる予測や災害対策の技術が進歩しても、
すべての国が同じように利用できるとは限りません。
豊かな国には大量のセンサーや強固なインフラがある。
一方で、十分な防災設備を整備できない国もあります。
すると未来には、
災害そのものではなく、「災害から身を守れる国」と「守れない国」の格差
が問題になる可能性もあります。
AIが世界中の災害データを共有できれば
しかしAIには、逆の可能性もあります。
一つの国で得られた災害データや対策を、
他の国でも利用できます。
ある地域で発生した洪水。
別の地域で発生した山火事。
過去の地震被害。
避難に成功した事例。
失敗した事例。
それらをAIが学習し、
世界中で共有できれば、
一つの災害で得られた教訓を、次の災害で生かす
ことができます。
自然災害への対応は、
国家間競争よりも、
人類全体で協力しやすい分野なのかもしれません。
「自然には勝てない」で終わらせてよいのか
私たちは昔から、
「自然には勝てない」
と言ってきました。
確かにその通りです。
自然そのものに勝つ必要もないと思います。
しかし、
自然に勝てないことと、人間が犠牲にならなければならないことは同じではありません。
地震が起きる。
台風が来る。
大雨が降る。
それでも、
「今回の災害では建物や道路は壊れたが、人は誰も亡くならなかった」
と言える社会を目指すことはできます。
私は、それこそが未来の防災なのではないかと思います。
夢の21世紀とは「自然を支配する社会」ではない
子どもの頃に描かれていた未来社会では、
人類が自然まで克服しているように見えることがありました。
しかし今考えると、
それは少し違うのかもしれません。
本当の未来社会とは、
自然を完全に支配する社会ではなく、自然と共存しながら人間の命を守れる社会
なのではないでしょうか。
AIが予測する。
センサーが監視する。
ドローンが確認する。
ロボットが危険な場所へ入る。
自動運転車が人を避難させる。
そしてAIが社会全体を見ながら、
最適な判断を支援する。
そこまでできれば、
「災害が起きること」と「人が亡くなること」を切り離せる時代
が来るかもしれません。
しかし、その社会には強力な情報基盤が必要になる
ここまで考えると、一つのことに気づきます。
未来の防災社会を作るには、
行政が大量の情報を扱う必要があります。
道路状況。
建物情報。
気象情報。
避難所。
住民情報。
医療情報。
電力。
通信。
物流。
これらをAIで統合し、
必要なときに迅速に判断できる政府や自治体が必要になります。
つまり次の問題は、
「未来社会では、どのような政府が必要になるのか」
です。
巨大な行政組織が必要なのでしょうか。
それともAIによって、
小さな組織でも非常に高い行政能力を持てるようになるのでしょうか。
そして強力な政府は、
私たちを守る存在になるのか。
それとも、私たちを監視する存在になるのか。
次回は、
「AI時代に『小さくても強い政府』は必要になるのか」
というテーマから、
AIによる行政効率化、富の再分配、個人情報、監視社会、
そして腐敗しない政府について考えてみたいと思います。
この記事が、どこかで
「ためになるかもしれない」と思っていただけたら嬉しいです。


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