
前回の記事では、AI、センサー、ドローン、ロボットなどを活用することで、
「災害が起きても人が死なない社会」に近づける可能性について考えました。
しかし、そのような社会を実現しようとすると、
一つ大きな問題が出てきます。
誰が社会全体の情報を集め、
誰が判断し、
誰が支援を行うのか。
最終的には、
政府や自治体の役割が非常に大きくなる
ことになります。
これまでの連載でも、
AIが生み出した富の再分配、
ベーシックインカム、
医療、
教育、
災害対策などについて考えてきました。
これらを社会全体で実現しようとすれば、
政府という存在を避けて通ることはできません。
ではAI時代には、
これまで以上に巨大な政府が必要になるのでしょうか。
私は、必ずしもそうではないと思っています。
むしろ必要なのは、
「小さくても、非常に強い政府」
なのかもしれません。
今の行政は、人間が事務処理することを前提に作られている
現在の行政を考えてみると、
非常に多くの仕事が人間による事務処理で成り立っています。
申請書を受け取る。
内容を確認する。
別の部署へ回す。
条件に該当するか判断する。
通知書を作る。
郵送する。
問い合わせに答える。
そして、そのために多くの組織や部署、人員が必要になります。
制度が複雑になればなるほど、
それを運用する行政組織も大きくなります。
しかしAIがこうした事務処理の多くを担えるようになれば、
行政そのものの形も大きく変わる可能性があります。
AIなら「申請しなくても支援できる」かもしれない
現在の社会保障では、
支援が必要な人自身が申請しなければならない制度が数多くあります。
制度を知らない。
申請方法が分からない。
必要書類を集められない。
その結果、本来受けられる支援を受けられないこともあります。
しかし行政情報が適切に連携され、
AIが利用できるようになれば、
「あなたはこの制度の対象です」
と行政側から知らせることも可能になるでしょう。
さらに将来的には、
条件が明確な給付であれば、
申請そのものを不要にする
ことも考えられます。
税金。
所得。
家族構成。
年齢。
必要な情報がすでに行政に存在するのであれば、
同じ内容を何度も市民に書かせる必要はないからです。
行政が小さくなっても、能力は高くできる
これまで、
「行政サービスを充実させる」
ということは、
「組織や人員を増やす」
ことと比較的強く結びついていました。
しかしAIによって、一人の職員が以前の数人分、場合によってはそれ以上の仕事を行えるようになれば、
その関係は変わります。
職員数は少ない。
組織もシンプル。
それでも、
- 24時間問い合わせに対応する
- 大量のデータを分析する
- 災害時に迅速な判断を行う
- 給付を自動化する
- 税制を効率的に運用する
- 社会保障を必要な人へ届ける
ことができる。
これが私の考える、
「小さくても強い政府」
です。
「小さい政府」と「弱い政府」は違う
ここで注意したいのは、
政府が小さいことと、政府の能力が弱いことは同じではない
という点です。
人員を減らしただけで、
災害対応が遅れる。
社会保障が届かない。
行政手続きがさらに不便になる。
それでは単なる行政サービスの縮小です。
AI時代に目指すべきなのは、
組織は小さいが、判断力と実行力は高い政府
ではないでしょうか。
AI時代には政府の役割がむしろ増える可能性がある
一見すると、
AIによって行政が効率化すれば政府の役割は小さくなりそうです。
しかし、このシリーズで考えてきた未来を振り返ると、
むしろ逆の面もあります。
AIとロボットによって人間の仕事が減る。
企業に富が集中する。
社会保障の仕組みを作り直す。
ベーシックインカムのような所得保障を検討する。
医療や教育を広く提供する。
災害時にAIを使って住民を守る。
こうした社会では、
富を集め、再分配し、社会基盤を維持する政府の役割は、むしろ重要になります。
問題は、政府が巨大な情報を持つこと
しかし、ここからが難しいところです。
行政サービスを高度化するためには、
多くの情報が必要になります。
所得。
税金。
資産。
健康情報。
家族構成。
住所。
移動履歴。
購買履歴。
災害時の現在地。
これらをAIが分析できれば、
非常に高度な行政サービスを提供できます。
しかし同時に、
政府が国民一人ひとりについて、これまでとは比較にならないほど詳しく知ることができる
ようになります。
理想的な福祉国家と監視国家は、技術的には近い
たとえばAIが国民の状況を分析し、
「この人は生活に困っている」
「この人には医療支援が必要」
「この家庭には教育支援が必要」
と判断し、自動的に支援してくれる。
これは非常に理想的な福祉国家に見えます。
しかし同じデータを使って、
「この人は何を購入しているか」
「どこへ行っているか」
「誰と会っているか」
「どんな考えを持っているか」
を分析すれば、
極めて高度な監視国家を作ることもできます。
つまり、
理想的な福祉国家と監視国家は、使っている技術だけを見れば非常に近い存在
なのです。
デジタル通貨まで組み合わさると政府の力はさらに強くなる
第6回では、現金が減り、デジタル通貨が中心になる未来について考えました。
もし将来、
すべての決済がデジタル化されれば、
行政は技術的にはお金の流れまで把握できるようになります。
誰が、
いつ、
どこで、
何を買ったか。
さらには、
「この給付金は食料にだけ利用できる」
「この支援金は医療費にだけ利用できる」
といった制限を設定することも考えられます。
福祉政策として使えば便利です。
しかし、
政府が国民のお金の使い方まで決められる社会
になれば、話は違ってきます。
AIによる「善意の管理」が一番怖いかもしれない
監視社会というと、
独裁者が国民を支配するような分かりやすいイメージがあります。
しかしAI時代には、
もっと穏やかな形で管理が進む可能性があります。
「あなたの健康のためです」
「犯罪を防ぐためです」
「税金の不正を防ぐためです」
「災害から命を守るためです」
「社会保障を公平にするためです」
どれも目的としては正しい。
そして一つずつ見れば、便利な仕組みです。
しかし、それらが積み重なった結果、
気づいたときには、生活のほとんどを国家やAIに把握されている
という社会になる可能性もあります。
「便利だから任せる」を繰り返すとどうなるか
人間は便利なものを使います。
AIが税金を計算してくれる。
AIが健康管理をしてくれる。
AIが最適な学校を選んでくれる。
AIが適職を判断してくれる。
AIが生活費を管理してくれる。
どれも便利です。
しかし、
便利さと引き換えに、どこまで自分の判断を手放してよいのか。
という問題があります。
AIが最適だと判断した人生と、
本人が選びたい人生が同じとは限りません。
間違ったAI判断を誰が止めるのか
もう一つ重要なのが、
AIが間違えたときの問題です。
行政AIが、
「あなたはこの給付の対象ではありません」
と判断した。
しかし実際には対象だった。
あるいは、
「この人は不正を行っている可能性が高い」
とAIが判断した。
しかし誤判定だった。
このようなとき、
最終的に誰が責任を持つのでしょうか。
AIが決めたから仕方ない、
では済みません。
そのため未来の政府では、
AIに決定させる仕組み以上に、AIの判断を人間が修正できる仕組み
が重要になるでしょう。
AIの判断理由を説明できることも必要になる
行政の判断は、
人間の人生に直接影響します。
税金。
福祉。
医療。
教育。
場合によっては司法や治安にもAIが関わるかもしれません。
そこで、
なぜAIがその判断をしたのか
を確認できる仕組みが必要になります。
「コンピュータがそう判断したから」
ではなく、
どの情報を使い、
どのルールに基づき、
なぜその結論になったのか。
それを人間が確認できることが重要です。
最も重要なのは、政府そのものが腐敗しないこと
そして私は、
AI時代の政府について考えるとき、
最も重要なのはここだと思います。
政府そのものが腐敗しないこと。
どれほど優れたAIを導入しても、
そのAIを使う側が腐敗していれば意味がありません。
むしろ高度なAIは、
腐敗した権力者にとって非常に強力な道具になる可能性があります。
情報を集める。
反対する人を探す。
資産を把握する。
移動を追跡する。
お金の利用を制限する。
これらが自動化されれば、
過去の独裁国家よりはるかに効率的な管理社会を作ることもできてしまいます。
では、腐敗しない政府をどう作るのか
これは非常に難しい問題です。
「良い政治家を選べばいい」
だけでは十分ではありません。
人間である以上、権力を持てば誤る可能性があります。
だから重要なのは、
人の善意に頼るのではなく、腐敗しにくい仕組みを作ること
でしょう。
たとえば、
- 行政判断の透明性を高める
- 政府が利用するAIの監査を行う
- 重要な判断を一つの組織だけに集中させない
- 市民が異議申し立てできる仕組みを持つ
- 情報利用の範囲を法律で明確にする
- 独立した監視機関を設ける
などが必要になるでしょう。
AIは腐敗を減らす道具にもなり得る
一方で、AIは政府を監視する側にも利用できます。
大量の公共事業。
予算。
補助金。
入札。
政治資金。
こうした情報をAIが分析し、
通常とは異なる取引や不自然なお金の流れを見つける。
つまりAIは、
国民を監視する道具にも、政府を監視する道具にもなれる
ということです。
ここでも重要なのは、
技術そのものではなく、誰がどのように使うかです。
世界中が同じ政治制度になるわけではない
さらに難しいのは、
この問題が一つの国だけで完結しないことです。
世界にはさまざまな政治体制があります。
民主主義国家。
権威主義国家。
政治的に安定している国。
汚職が深刻な国。
行政能力が高い国。
十分な行政機能を持てない国。
AIという同じ技術を使っても、
その結果は国によって大きく違うでしょう。
ある国では、
AIが国民を支える福祉国家を作る。
別の国では、
AIが権力者を守る監視国家を作る。
ということも十分考えられます。
AI格差は国家間にも生まれる
これまでの連載では、
AIを所有する企業と持たない企業の格差について考えてきました。
同じことが国家にも起こる可能性があります。
高度なAI。
大量の計算資源。
安定した電力。
データセンター。
優れた通信インフラ。
それらを持つ国と持たない国では、
行政能力や経済力に大きな差が出るかもしれません。
つまり未来には、
「豊かな国と貧しい国」という格差に加え、「AIを使いこなせる国と使えない国」の格差
が生まれる可能性があります。
そして移民の問題も出てくる
もしある国では、
最低限の所得が保障され、
医療も教育も利用でき、
AIによって行政サービスが高度化している。
一方、別の国では仕事がなく、
社会保障も十分でない。
となれば、
当然、人はより生活しやすい国へ移動しようとします。
そのとき、
「誰を社会保障の対象にするのか」
という問題が出てきます。
ベーシックインカムのような制度も、
一国だけで考えるほど単純ではありません。
国境がある以上、
再分配の仕組みと移民政策は切り離せなくなるでしょう。
「夢の21世紀」は一つの国だけでは作れない
ここまで考えると、
夢の21世紀を一つの国だけで完成させることは難しいことが分かります。
AI企業は世界規模で活動します。
人も国境を越えます。
資本も移動します。
気候変動や災害も国境を越えます。
感染症も同じです。
だから最終的には、
国家間で最低限共有すべきルール
も必要になってくるのでしょう。
ただし世界政府のような巨大な権力を作れば、
また別の危険が生まれます。
ここでも、
強力でありながら、権力を集中させすぎない仕組み
が必要になります。
AI時代に必要なのは「強い政府」より「信頼できる政府」なのかもしれない
ここまで私は、
「小さくても強い政府」という言葉を使ってきました。
しかし考えてみると、
本当に重要なのは「強さ」だけではないのかもしれません。
政府がどれほど高性能なAIを持っていても、
国民がその政府を信用できなければ、
大量の個人情報を預けることはできません。
逆に、
情報の使い方が透明で、
誤った判断を修正でき、
権力の乱用を防ぐ仕組みがあり、
国民から信頼されているのであれば、
AIを使った高度な行政も受け入れやすくなります。
つまり未来社会で本当に必要なのは、
「小さくても強く、そして信頼できる政府」
なのではないでしょうか。
AIが政治をする社会になるのか
さらに先を考えると、
「政治家そのものもAIでよいのではないか」
という議論が出てくるかもしれません。
AIなら膨大なデータを分析できます。
眠りません。
感情にも左右されにくい。
お金にも興味を持ちません。
一見すると、理想的な政治家に見えます。
しかし政治とは、
効率だけを決める仕事ではありません。
何を大切にするのか。
誰を優先するのか。
どこまで負担を求めるのか。
どんな社会を目指すのか。
そこには価値判断があります。
だからAIは、
政治家に代わって社会の目的を決める存在ではなく、人間がより良い判断をするための道具
として使う方がよいのではないでしょうか。
夢の21世紀で最後に残る問題は「人間」なのかもしれない
AIは進歩する。
ロボットも進歩する。
医療も進歩する。
生産性も上がる。
行政も効率化する。
しかし、最後にそれを使うのは人間です。
技術がどれほど優れていても、
人間が権力を独占し、
富を独占し、
他人を支配しようとすれば、
夢の21世紀は実現しません。
逆に、
AIが生み出した豊かさを社会全体へ循環させ、
人間の自由を守り、
技術を人間の幸福のために使うことができれば、
私たちが子どもの頃に夢見た未来へ、ようやく近づけるのかもしれません。
そして、ここまで社会が変わったとき、
最後に一つ大きな疑問が残ります。
AIとロボットが働き、
生活に必要なものが保障され、
生きるために働く必要がなくなったとしたら、
人間はそれで本当に幸せなのでしょうか。
次回はいよいよこのシリーズの最後として、
「働かなくても生きていける社会で、人間は幸せなのか」
というテーマから、
仕事、生きがい、自己実現、社会とのつながり、
そして「生きるために働くことを強制されなくなる社会」について考えてみたいと思います。
この記事が、どこかで
「ためになるかもしれない」と思っていただけたら嬉しいです。

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