
前回の記事では、AI、ロボット、自動運転、再生医療などの進歩によって、
私たちが子どもの頃に夢見た「21世紀」が、30年ほど遅れて始まりつつあるのではないかと書きました。
もしAIとロボットが、人間の代わりに多くの仕事をしてくれるようになれば、
社会全体の生産性は大きく向上するでしょう。
工場では少ない人数で大量生産ができる。
物流ではAIが最適な配送ルートを判断し、ロボットが荷物を運ぶ。
農業では自動運転の農業機械や収穫ロボットが働く。
事務作業ではAIが文章を作成し、データを集計し、資料まで作ってくれる。
考えれば考えるほど、
「人間がやらなくてもよい仕事」
は、これから急速に増えていくように思えます。
しかし、ここで避けて通れない問題があります。
人間がやらなくてもよい仕事が増えたとき、そこで働いていた人はどうなるのでしょうか。
100人で作っていたものを10人で作れるようになったら
分かりやすく、工場を例に考えてみます。
これまで100人の従業員で製品を作っていた工場があるとします。
そこへAI、自動化された生産設備、産業用ロボット、検査AIなどを導入した結果、
同じ生産量を10人で維持できるようになったとします。
企業にとっては大成功です。
- 人件費が減る
- 生産速度が上がる
- 品質が安定する
- 24時間稼働しやすくなる
- 人手不足の影響を受けにくくなる
さらに、生産量そのものを増やせるかもしれません。
経営者から見れば、これほど魅力的な投資はないでしょう。
では、必要なくなった90人はどうなるのでしょう。
別の仕事へ移ることができれば問題ありません。
しかし、その「別の仕事」までAIやロボットに置き換わっていったらどうでしょうか。
今回のAI革命は、過去の機械化とは少し違う
「機械が人間の仕事を奪う」という話は、今回が初めてではありません。
産業革命では機械が人間の肉体労働を代替しました。
農業の機械化によって、少ない人数で大量の作物を生産できるようになりました。
工場では自動化が進み、銀行ではATMが普及し、駅では自動改札が当たり前になりました。
それでも新しい産業や新しい仕事が生まれ、人間は別の仕事へ移ってきました。
だから今回も、
「AIでなくなる仕事があっても、新しい仕事が生まれるから心配ない」
という意見があります。
もちろん、そうなる可能性はあります。
しかし私は、今回のAI革命はこれまでの機械化とは少し性質が違うように感じています。
これまで機械が得意だったのは、主に人間の身体能力の代替でした。
重い物を持つ。
同じ動作を正確に繰り返す。
高速で計算する。
ところが生成AIは、人間の知的作業にも入り始めています。
文章を書く。
要約する。
翻訳する。
企画案を作る。
プログラムを書く。
画像を作る。
資料を分析する。
相談に答える。
つまり今回は、
「肉体労働だけでなく、頭脳労働まで自動化の対象になる」
という点が大きく違います。
ホワイトカラーだから安全とは限らない
少し前まで、
「ロボットに仕事を奪われるのは工場などの単純作業」
というイメージが強かったと思います。
ところが生成AIの進歩によって、その見方は大きく変わりました。
むしろ現在は、
- 一般事務
- 経理補助
- 資料作成
- 翻訳
- カスタマーサポート
- マーケティング
- デザインの一部
- プログラミングの一部
- 文章作成
など、パソコンの前で行ってきた仕事の方が、AIの影響を早く受け始めています。
もちろん、これらの仕事がすべてなくなるわけではありません。
しかし、
「10人で行っていた仕事を3人でできる」
ようになるだけでも、雇用への影響は非常に大きくなります。
仕事がなくなるより、「必要な人数が減る」方が現実的
AIについて議論するとき、
「この職業はなくなる」
「この職業はなくならない」
という二択で語られることがあります。
しかし実際には、もっと緩やかに変化するのではないでしょうか。
たとえば経理という仕事そのものが消えなくても、
AIが仕訳、請求書処理、集計、チェックなどを行えば、
これまで5人必要だった部署が2人で済むかもしれません。
プログラマーという職業がなくならなくても、
一人のプログラマーがAIを使うことで、以前の数人分の仕事をこなせるようになるかもしれません。
デザイナーも、営業も、コンサルタントも同じです。
つまり、最も現実的なのは、
「職業が消える」のではなく、「その職業に必要な人数が減る」
ことではないかと思います。
そしてロボットが「現場仕事」に入ってくる
現在の生成AIは、比較的パソコンの中で完結する仕事を得意としています。
一方、人間の手や足を使う仕事は、まだ人間の方が得意な場面が多くあります。
しかし、AIを搭載したロボットが進歩すれば、この境界も変わります。
工場で部品を運ぶ。
倉庫で商品を仕分ける。
店舗で商品を補充する。
ホテルで荷物を運ぶ。
農作物を収穫する。
建設現場で資材を運ぶ。
介護施設で身体的な負担の大きい作業を補助する。
こうした仕事にロボットが入ってくれば、
AIによる影響は事務職だけではなく、現場仕事にも広がります。
危険な仕事、きつい仕事は人間がやらなくてもよくなる
これは、決して悪いことばかりではありません。
むしろ私は、
危険な仕事や身体的に非常に負担の大きい仕事は、積極的にロボットへ任せるべきだ
と思います。
災害現場。
高温環境。
有害物質を扱う場所。
高所作業。
重量物の運搬。
人間が命や健康を危険にさらして行っている仕事は数多くあります。
そこをロボットが担当できれば、
技術進歩は間違いなく人間を幸せにします。
問題は、
「危険な仕事から人間を解放すること」と「人間の所得をなくすこと」が、同時に起きてしまう可能性があることです。
仕事から解放されるのか、それとも仕事を奪われるのか
ここには、言葉ひとつで印象がまったく変わる問題があります。
AIとロボットによって人間が働かなくてもよくなることを、
「仕事から解放される」
と表現すれば、夢のような未来です。
一方で、
「仕事を奪われる」
と表現すれば、非常に不安な未来になります。
技術的には同じ現象です。
違うのは、
仕事をしなくなった人にも生活するための所得があるかどうか
です。
十分な所得が保証されているなら、
AIとロボットが仕事をしてくれることは歓迎できます。
しかし所得がなくなるのであれば、
それは「解放」ではなく「失業」です。
AIで企業は強くなっても、社会全体が豊かになるとは限らない
AIを導入して、生産性が2倍になった企業を考えてみます。
売上が同じでも、人件費などのコストが下がれば利益率は高くなります。
さらに競争力が上がり、売上まで増えるかもしれません。
企業としては非常に良い状態です。
しかし、その過程で多くの人が職を失えば、
社会全体では所得を得る人が減ります。
すると、少し奇妙なことが起こります。
社会全体では、以前より大量の商品やサービスを安く作れるようになったのに、それを買う所得を持つ人が減ってしまう。
生産能力は高い。
商品もある。
食料もある。
しかし、お金がないから買えない。
もしそうなれば、技術的には豊かな社会なのに、
人間の暮らしは豊かではないという矛盾が生まれます。
AIを持つ企業と、持たない企業の差も広がる
格差は、個人だけの問題ではありません。
企業間でも大きな差が生まれる可能性があります。
優れたAI、大量のデータ、高性能なロボット、大規模な設備に投資できる企業ほど、
少ない人数で大量の商品やサービスを提供できます。
一方、そうした投資ができない企業は、
人件費を抱えたまま競争しなければなりません。
結果として、
AIとロボットを所有する一部の巨大企業に利益が集中する
可能性もあります。
これは現在の資本主義をさらに加速させるかもしれません。
AI時代には「生産性」の意味を考え直す必要がある
企業経営では、生産性向上は非常に重要です。
同じ人数で多く作る。
同じ仕事を短時間で終える。
少ないコストで高い価値を生み出す。
これは企業にとって当然の目標です。
しかしAIとロボットによって、生産性が今までとは比較にならないほど向上したとき、
「人を減らせた企業ほど優秀」
という考え方だけで、本当に社会が成り立つのでしょうか。
企業単位では正しい判断でも、
すべての企業が同じことをすれば、社会全体では仕事を失う人が増えます。
AI時代には、
企業の生産性と、社会全体の豊かさを分けて考える必要がある
のではないでしょうか。
新しい仕事は本当に十分生まれるのか
もちろん、AIによって新しい仕事も生まれるでしょう。
AIを開発する仕事。
AIを導入する仕事。
ロボットを保守する仕事。
AIを使って新しいサービスを作る仕事。
今は存在しない職業も数多く登場するはずです。
ただし問題は、
なくなる仕事と同じ人数分だけ、新しい仕事が生まれるのか
ということです。
100人の仕事を自動化するAIシステムを、
100人で管理する必要はありません。
それでは自動化する意味がないからです。
AIやロボットの本質が、
「少ない人数で、より多くの仕事をすること」
にある以上、新しく生まれる雇用だけですべてを吸収できるとは限りません。
「働かなくてもよい社会」の前に、厳しい移行期が来るかもしれない
AIの未来については、
「将来はAIとロボットが働き、人間は働かなくても豊かに暮らせる」
という話を聞くことがあります。
私も最終的には、そんな社会が実現すれば素晴らしいと思います。
しかし、その未来へ一気に移行するとは思えません。
むしろ、
AIとロボットによる生産性向上
↓
企業が必要とする労働者の減少
↓
失業や所得減少
↓
AIやロボットを所有する企業・人への富の集中
という時代が、先に訪れる可能性があります。
その期間が数年なのか、数十年なのかは分かりません。
しかし、この「移行期」をどう乗り越えるかが、
AI時代の最大の課題になるのではないでしょうか。
次に問題になるのは「作ること」ではなく「買うこと」
AIとロボットが進歩すれば、
自動車も、家電も、食料も、さまざまな商品を今より安いコストで生産できるようになるでしょう。
それ自体は素晴らしいことです。
しかし、人間の仕事が減って所得まで減れば、
安くなった商品すら買えない人が増えるかもしれません。
ここで、資本主義にとって非常に大きな問題が生まれます。
「誰もが豊富に物を作れる社会」と「誰もが豊かに暮らせる社会」は、同じではない。
次回は、
「物は安くなる。でも人間には買うお金がない?」
という、一見すると矛盾したAI時代の経済について考えてみたいと思います。
この記事が、どこかで
「ためになるかもしれない」と思っていただけたら嬉しいです。

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