
買い物をしていると、いまや当たり前のように聞かれる言葉があります。
「ポイントカードはお持ちですか?」
スーパー、コンビニ、ドラッグストア、家電量販店、飲食店、ネット通販。
さらにクレジットカードやキャッシュレス決済まで含めれば、私たちは毎日のように何らかのポイントと付き合っています。
「○○円以上のお買い物で100ポイント」
「今日はポイント5倍」
「あと○○円でボーナスポイント」
こうした表示を見ると、なぜか少し得をしたような気分になります。
でも、ときどき思うのです。
私たちはポイントを利用しているのでしょうか。
それとも、ポイントに動かされているのでしょうか。
卵が10円安いから、車で買いに行く
購買心理について、昔からよくある話があります。
スーパーのチラシを見て、
「今日は卵が10円安い!」
と知り、少し離れたスーパーまで車や電車で買いに行く。
ところが、そのために使ったガソリン代や電車賃は10円を超えている。
それでも本人は、
「今日は卵を安く買えた」
と満足します。
もちろん、買い物そのものを楽しんでいるなら、それも一つの価値でしょう。
しかし純粋に「10円得すること」が目的だったとすれば、少し不思議な話です。
10円を節約するために、それ以上のお金を使っているのですから。
ポイントにも、これとよく似たところがあります。
「ポイント5倍」は本当に5倍得なのか
「本日ポイント5倍!」
この言葉には、なかなか強い力があります。
普段より5倍も得をするような気になります。
しかし、当然ながら商品の価格が5分の1になるわけではありません。
仮に通常1%のポイントが付く店なら、5倍になっても5%です。
必要な1万円の商品を買って500円相当のポイントをもらえるのであれば、確かに得でしょう。
ところが、
「せっかくポイント5倍だから」
と予定していなかった商品まで5,000円余計に買ったらどうでしょう。
ポイントを得るために支出が増えてしまいます。
それでもレシートに表示された「獲得ポイント」を見ると、なんとなく得をした気分になる。
ポイントの面白さであり、少し怖いところでもあります。
ポイントは、もらった瞬間にはまだ「得」ではない
私はポイントについて、もう一つ気になることがあります。
ポイントは、もらっただけでは本当の価値になっていないということです。
たとえば1,000ポイントを持っていても、使わずに有効期限が切れてしまえば価値はゼロです。
「5,000ポイント以上から交換可能」という制度なら、4,900ポイント持っていても交換できない場合があります。
「10,000ポイントでこの商品と交換」という仕組みなら、その商品が必要な人には価値がありますが、必要でなければ微妙です。
つまりポイントの価値は、
「何ポイント持っているか」ではなく、「実際に何に使えたか」
で決まるのではないでしょうか。
その意味では、1ポイント=1円として買い物に使えるキャッシュレス決済系などのポイントは、比較的現金に近い存在です。
それでも現金とは違います。
使える場所、期限、交換条件など、何らかの制約があることが多いからです。
なぜ企業は現金ではなくポイントをくれるのか
ここで立場を逆にして、ポイントを「与える側」から考えてみます。
なぜ企業はポイントを発行するのでしょう。
単純な値引きなら、
「1,000円の商品を950円にします」
でもいいはずです。
しかし50円値引きすれば、その取引はそこで終わります。
一方、
「50ポイント差し上げます」
なら、その50ポイントを使うために、また店に来てもらえる可能性があります。
さらに、
「あと200円買えばボーナスポイント」
「今月あと1回利用するとランクアップ」
「ポイントの有効期限は今月末です」
となれば、次の行動を促すこともできます。
ポイントは単なる値引きではありません。
次の行動につなげる仕組み
でもあるわけです。
私もポイントを「与える側」だった
実は私自身も、マレーシアで働いていたとき、ポイント制の人事考課システムを導入したことがあります。
もちろん買い物のポイントとは目的が違いますが、仕組みを考えるうえで共通する部分がありました。
評価によってポイントが貯まる。
そして貯めたポイントには価値を持たせる。
ただし、少し貯まったからといって、すぐに全部使える仕組みにはしませんでした。
使用する場合には一定のポイント単位を設け、さらに最低ポイント数を設定する。
ある程度貯めないと使えないようにしたのです。
そこには、
「もっと貯めたい」
「ここまで貯めたのだから、もう少し続けたい」
という心理が働きます。
結果として、働き続ける動機の一つにもなるよう制度を設計しました。
今考えてみれば、私自身がポイントの持つ「魅力」と「魔力」を利用していたわけです。
ポイントの原点は、母が持っていたシール台紙?
ポイントの歴史を考えていると、子どもの頃の記憶がよみがえります。
私の母親は、商店街でもらったシールを貼る台紙を持っていました。
買い物をすると、金額に応じてシールがもらえる。
それを一枚ずつ台紙に貼っていく。
台紙がいっぱいになると、何らかの優待や商品などと交換できる。
今のようにスマートフォンもアプリもありません。
QRコードもありません。
それでも、
「買う」→「貯める」→「いっぱいになる」→「使う」
という基本的な構造は、今のポイントサービスとほとんど変わりません。
シールがスタンプカードになり、磁気カードになり、会員カードになり、スマートフォンのアプリになった。
そして店舗独自だったポイントは、共通ポイントやクレジットカード、キャッシュレス決済などと結びつき、さまざまな場所で貯めたり使ったりできるようになりました。
便利になった一方で、私たちは以前よりはるかに大きな「ポイントの世界」の中で生活するようになったのかもしれません。
ポイントの魅力と魔力
ポイントそのものが悪いわけではありません。
どうせ必要な商品を買うのであれば、ポイントをもらった方がいい。
そして、そのポイントを確実に使えば得になります。
問題は、順序が逆になったときです。
必要だから買ったら、ポイントが付いた。
これは分かります。
しかし、
ポイントが付くから、必要ではないものまで買った。
となれば話は変わります。
卵を10円安く買うために、それ以上の交通費を使うのと似ています。
「あと500円買えば100ポイント」と言われて、必要のない500円の商品を追加してしまう。
「今日ならポイント5倍」と言われて、来月でもよかったものを今日買ってしまう。
「今月でポイントが失効します」と言われて、特に欲しくもなかったものを買う。
こうなると、ポイントを使っているつもりが、いつの間にかポイントに行動を決められています。
本当に見るべきなのは「何ポイント付くか」ではない
ポイントサービスを見るとき、私たちはつい、
「何ポイントもらえるか」
を見てしまいます。
でも、本当に考えるべきなのは、
「そのポイントによって、自分はいくら使うのか」
ではないでしょうか。
10円安く買うために100円のガソリンを使っていないか。
500円分のポイントをもらうために、必要のない5,000円を使っていないか。
期限切れになりそうな300ポイントを使うために、1,000円の買い物をしていないか。
そう考えると、「お得」という言葉の見え方が少し変わります。
ポイントを貯めているのか、ポイントに動かされているのか
昔、母が商店街のシールを台紙に一枚ずつ貼っていた時代から、人は「貯める」という行為が好きだったのかもしれません。
あと一枚。
あと100ポイント。
あと一回。
数字がゴールに近づいていくと、途中でやめるのが惜しくなる。
そこには人間の心理をうまく刺激する仕組みがあります。
だからこそポイントには魅力があり、同時に魔力もあるのでしょう。
ポイントは上手に使えば、間違いなく便利でお得な仕組みです。
だから、ポイントをやめる必要などありません。
ただ、ときどき自分に聞いてみてもいいと思います。
「これは必要だから買うのか。それともポイントが欲しいから買うのか?」
その答えが分かっていれば、ポイントは便利な道具です。
分からなくなったときには――
ポイントを貯めているのではなく、私たちの行動の方が、ポイントに貯められているのかもしれません。
この記事が、どこかで
「ためになるかもしれない」と思っていただけたら嬉しいです。




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