
日本ではよく知られている「PDCA」。しかし、海外の現場では必ずしも当たり前の考え方ではありません。私がマレーシアの会社で実際に取り入れたPDCAの事例を通して、改善活動が社員のモチベーション向上とコミュニケーション活性化につながった経験を紹介します。
日本では当たり前?「PDCA」をマレーシアで導入した話
日本人なら多くの人が知っている「PDCA」。しかし私がマレーシアの製造業で経営に携わっていた頃、この言葉を現地幹部に尋ねると、知っている人はほとんどいませんでした。
その時、私は品質向上やコストダウンだけでなく、社員のモチベーション向上とコミュニケーション活性化を目的として、社内にPDCAを浸透させようと考えました。
ただ「PDCAを導入します」と言っても伝わりません。そこで経営会議の場で、身近な例を使って説明することにしました。
動物園へ行く計画もPDCA
私はこんな例を出しました。
「皆さんが休日に家族で動物園へ行くとします。」
- 10時頃に到着したい
- 12時にランチを食べたい
- 15時には帰路につきたい
その場合、まず考えるのは「何時に家を出れば良いか」です。これが計画(Plan)です。
例えば、車で1時間かかると考えて9時に出発したとします。これが実行(Do)です。
ところが休日で渋滞し、1時間どころか2時間以上かかりそうです。家族からも不満が出始めます。これが評価(Check)です。
するとお父さんは考えます。
- 渋滞を受け入れるか
- 迂回路を探すか
- 予定を変更するか
- 今日は諦めて別日にするか
これが改善(Action)です。
そして改善後、また新しいPDCAが始まります。つまりPDCAとは難しい管理手法ではなく、誰もが日常生活で無意識に行っている「考えて改善するサイクル」なのです。
次の経営会議までの宿題
PDCAの説明後、私は各部門に課題を出しました。
- 品質向上
- 歩留率向上
- コストダウン
これらについて、自分たちの仕事でPDCAをどう活用できるか、次回の経営会議で発表してほしいと依頼しました。
資料はパソコンで作らなくてもよく、手書きでも構わないことにしました。
当時はPCを使って資料作成できる社員が少なかったこともあります。しかしそれ以上に、形式よりも「自分の考えを表現すること」が大事だと思っていたからです。
提案制度とポイント評価が行動を変えた
約2週間後、会議ではさまざまな改善案が集まりました。
当時、社内では「ポイント制人事考課システム」も導入しており、良い提案にはポイントを付け、優秀な改善案は年間表彰する仕組みも浸透し始めていました。
その結果、社員は単なる作業者ではなく、「自分たちが会社を改善する側」という意識を持つようになっていきました。
無謀な提案も、頭ごなしには否定しない
中には、必要な材料まで削減しようとする、少し無謀とも思えるコストダウン案もありました。
しかし私は、むやみに却下しませんでした。
なぜその材料が必要なのか。工程設計や作業手順の意味は何か。一緒に考え、説明しました。
結果として見えてきたのは、問題は提案内容そのものではなく、作業手順や工程への理解不足でした。
そこで手順書や工程設計書も見直しました。改善活動は単なるコスト削減ではなく、教育や理解の向上にもつながったのです。
廃棄コストを5分の1まで削減した事例
実際に大きな成果につながった事例もあります。
研磨工程では、排水処理後に「スラッジ」と呼ばれる汚泥が発生します。
当初は圧縮後、そのままドラム缶へ入れて廃棄業者へ依頼していました。しかし廃棄費用は重量で決まるため、かなり高額になっていました。
そこで私は担当部門へ、ひとつのテーマを出しました。
常夏のマレーシアなら、圧縮後のスラッジに扇風機で風を送り、水分を飛ばせないか。
担当部門はこのテーマに取り組み、低コストで乾燥システムを実現しました。
その結果、廃棄費用を約5分の1まで削減することに成功しました。
しかも、その部門はそれまであまり目立つ存在ではありませんでした。しかしこの成果によって、その年の優秀賞を受賞しました。
PDCAの本当の価値は「考える組織」を作ること
回を重ねるごとに、提案内容は実務的で質の高いものになっていきました。
役職に関係なく発表し、部署を越えて意見を出し合う。そんな空気が少しずつ生まれていきました。
当初目標としていたモチベーション向上とコミュニケーション活性化は、確実に実現できていたと思います。
社員一人ひとりが仕事に疑問を持ち、問題意識を持ち、改善を考えるようになる。会社全体が以前より生き生きしていくのを感じました。
PDCAは古いのではなく、本質的な考え方
最近では「PDCAは古い」と言われることもあります。
確かに時代は変わり、OODAやアジャイルなど、新しい考え方も増えました。
しかし、計画し、実行し、振り返り、改善する。この本質は今も変わりません。
AI時代になっても、改善を考えるのは人間です。
PDCAの価値は、業務改善そのものだけではありません。
社員が自ら考え、対話し、会社を良くしようとする組織文化を作ること。そこにこそ、PDCAの本当の価値があるのではないでしょうか。


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